TrashyHeaven’sDiary

主に読書記録とか

怪談話

とある書店でアルバイトをしていた青年の話です。
ある日の夜、青年はいつものように本の返品作業をおこなっていました。作業は、もう終盤で、あとは伝票を切ってそれをダンボール箱にいれ、その箱を縛るだけです。アルバイトを始めて数ヶ月。すっかり慣れたその作業を、彼は黙々とこなしていました。
そんな時です。彼はふと視線を感じました。
視線を感じた方向を向くと、その店の袋を両腕で抱きかかえた小学生くらいの少女がじっと彼を見ていました。なにか聞きたいことがあるのだろうかと、少し目線を合わせてみましたが少女は全く反応を示しません。
彼は作業を再開しました。――――――しかし。
少女はその場から動くことなく、いつまでもじっと彼を見つめています。笑うでもなく。興味深々といった風でもなく。ただただ無表情で。
少々の居心地の悪さを感じながらも、彼は作業を続けました。
しばらくすると、その少女の姉と母親らしき人物が現れ、その2人に連れられて、少女は彼の前から姿を消しました。
その少女の後ろ姿を見送りながら、青年ある疑問を抱きました。すなわち、少女が見つめていたのは、自分ではなく、その背後ではないか、と。どうも、青年自体を見ていたようには思えなかったのです。けれど、この考えには大きな欠陥がありました。青年の背後には、ただ薄汚れた壁があるだけで、少女の気を引くようなものは何一つ無いという事実です。

よく、幼い子供には大人には見えない何かが見えると言います。妖精しかり、座敷童しかり。そして―――――幽霊しかり。
もしかしたら少女は、その書店アルバイトの青年の後ろに、何か禍々しいモノを見ていたのかもしれません。
青年にその後何が起きたのかは―――言わぬが花というものでしょう。