TrashyHeaven’sDiary

主に読書記録とか

“文学少女”と神に臨む作家 上下

「けど、醜い現実があるのなら、美しい現実も存在しているんです。物語は、醜いだけじゃない。悲惨なだけでも、哀しいだけでもない、その中に愛しいものや、美しいものがあるんです。」

“文学少女”の物語、終幕。或いは―――読者の“想像”の中での、新たな開幕。
琴吹ななせと付き合い始めた心葉。しかし、その心葉に対して、卒業間際の遠子先輩は微妙な態度を見せ、唐突な別れを告げ―――そして、裏切る。小説を書くようにと迫る、遠子と流人。頑なに拒む心葉。その心葉に「あなたは作家にはなれない」と告げるのは―――。
自分の語彙の少なさを、痛感する。だって、こんなに素晴らしい作品を、賞賛する言葉が見つからない。ページをめくるもどかしさと、ページをめくりたくない寂しさを、同時に味わわせてくれるこの最終巻を表現する言葉が見当たらない。
積み上げてきた伏線が収束して、読者を裏切って、全然予想できなかったのに「これしかない」って思える、そんなエンディングがやがて訪れて。世界は希望ばかりじゃないけれど、でも、絶望ばかりでもない。本は、物語は、作者を飛び越えて、登場人物たちに魂を宿らせて、それを受け取る読者に希望や絶望や笑いや嘆きや怒りや恋しさを――――いろんな感情を、くれる。
――――想像する。この現実世界のどこかで、天野遠子ではない“文学少女”が、このシリーズを読んで、隣にいる男の子に全ての語彙を動員して勧める様子を。そして、感化された彼は、いつしか物語を描き始めるのだ。
この“文学少女”シリーズは、思わずそんな想像をして、わくわく優しい気持ちになってしまうような、そんなシリーズです。すべての小説好きに、最大級の自信をもってお勧めできる――お勧めしたい最高級に大傑作なシリーズでした。
蛇足・下巻のカラー口絵は反則! あれだけで涙腺がゆるむ!