TrashyHeaven’sDiary

主に読書記録とか

米澤穂信先生の講演会(同志社大学ミステリ研主催)

注意!以下の文章は、僕の汚いこと極まりないメモと、頼りなさ抜群の記憶力を元に書いたものです。間違い、書き漏れ等が多々あると思いますがご了承ください。さらに、文章は米澤氏の発言のままではないことを明記しておきます(氏はとても丁寧に話していました)。また、米澤穂信作品に対してのネタバレには配慮していません。(米澤氏はネタバレが極力無いように配慮して話されていましたので、殆んど無いとは思いますが)
では、どうぞ。
講演会はネット上で募集した質問と、その場で出された質問に米澤氏が答えるという方式。
1.座右の銘
 カーの火刑法廷の中で編集者が作家に対して言う「事件を解決したら印税を25%にしてやる」と言う趣旨の台詞が好き。*1
追記(6/21)「才覚を持たない者は技術をもたなければならない」が本物の座右の銘のようです。 深江さかな様、情報ありがとうございました。
2.小説家になったいきさつ&3.幼少期から中学高校にかけて。
 小学校から家までが遠く、行き帰りにお話を考えていた。中学も遠くて、その頃ハマっていたTRPGのシナリオを考えていた。*2自分は、お話を作る仕事(小説家、シナリオライター等)になるんだろうなぁ、と思っていた。
4.これまでの読書遍歴について。
 『十角館の殺人』を前知識無しに読めたのは幸福なこと。知識(教養)とストーリーの融合が好き。クリスティの『なぜ、エヴァンスに頼まなかったのか?』に衝撃を受けた。『愚者のエンドロール』の英題(WHY DIDN'T SHE ASK EBA?)はこれに由来している。その他、山口雅也キッド・ピストルズの妄想―パンク=マザーグースの事件簿』と平石貴樹『だれもがポオを愛していた』に言及あり。
5.尊敬する作家さんは?
 尊敬というのは人格に対してするものなので、作品を好きなのと作者を尊敬するのは違うのでは。読んで面白いという意味では北村薫先生と泡坂妻夫先生。
6.過去の青春ミステリで意識しているものは?
 ミステリは積み重ねだけど、青春は一瞬のもの。特に作品とか、誰かの青春を意識してはいない。
7.執筆する際の、「これだけは気をつけている、譲れない」といったこだわりは?
 ・どんなにキャラクターに見えようとも、登場人物は生きている。
 ・見せ場の台詞は見開きに収めるようにしている。そのために、『さよなら妖精』の文庫版ではソフトカバーのものと少し差異がある。(例えば『夏季限定トロピカルパフェ事件』では226ページからの場面のセリフ)
8.「ライトノベル」に対する思い入れや、機会があればまたライトノベル系レーベルで作品を発表してみたいというお気持ちは?
 書きたいけれど、読者層が変わってきているので書けない。挿絵を逆手にとって何かトリックを仕掛けるものをやりたい。
9.「日常の謎」系ミステリに対して、何かポリシーは?
 日常生活では、あまり手間をかけようとしないから、犯人はトリックなんて使わないし、誰も謎を解こうとしない。ただ、誰も謎を解かないとミステリにならないので日常から「ミステリ時空」へと移行することが必要。古典部シリーズにおける千反田の役割はミステリ時空へ誘う事。*3
10.実際の出来事を小説のネタに使ったり、登場人物にモデルがいたりしますか? また、ご自身の作品の中で先生に似ていると思う登場人物は?
 実際の出来事をネタにすることはある。『さよなら妖精』でも使っているし古典部シリーズでは実体験が多く含まれている。登場人物に特定のモデルはいないが、誰かまわりにいる人の影響を受けていないとは言えない。また、自分に似ていると思うのは福部里志*4
11.シリーズもので探偵役を務める主人公が、消極的なキャラクターばかりなのは何故ですか?
 『犬はどこだ』の主人公は嫌々ながらちゃんと働いている。古典部の折木が消極的なのは、成長を書くため(最初から完璧では成長を描けない)。
12.作品中の女性からは、全体的に「強い女性」という印象を受けます。女性を描く上で意識されていることは?
 男性に都合の良い女性にならないように気をつけている。
13.古典部シリーズには、言わば”何かの「特別」になりたい”という青臭くて胸がぎゅっとなるような気持ちがちりばめられていると思いましたが、それはご自身の経験から来るのでしょうか?*5
 大学生になってネットをはじめると、ネットじゅうに「怪物」がいて「自分は特別だ」という感情を失ったが、高校生の頃までは誰もが抱く万能感を持っていた。
14.『さよなら妖精』は元々、古典部シリーズの一つとして出す予定だったと聞きました。『さよなら妖精』の主要キャラクターが古典部の誰に当てはまるのでしょうか?
 [古典→妖精]
 ・折木→守屋
 ・千反田→白河
 ・福部→文原
 ・伊原→文原と白河に分散
 ・太刀洗は全くの新キャラ
  古典部バージョンではマーヤは千反田の家に居候することになっていた。それぞれの名前の理由を言う場面では、千反田の「える」という変わった名前の理由が推理されるはずだった。*6また、古典部バージョンでは、ラストの推理の第一段階までを折木が千反田に説明し、第二段階は折木の独白だった。(他の質問のときに出た話ですが、)神社で白河が守屋に「どぼくねんじん!」と叫ぶ辺りの場面では、折木、千反田ともに朴念仁なため、伊原のみが空回りする感じだった。*7
15.何故、どの作品も「のこされた文書を読み解く」形式になっているのでしょうか?
 意識していなかった。編集者に指摘されて始めて気がついた。*8
16.「(SFの)神林長平戦闘妖精・雪風』を恋愛小説として読んだ」ということを書いておられますが、他にも良くSFを読まれるのでしょうか?
 (SFは門外漢ですが……、と前置きして)北野勇作*9谷甲州など。河出書房から出ている奇想コレクションをいくつか。(ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』など)
17.先生はスイーツがお好きなのでしょうか?
 好きですけど、それはおいしいものが好きなんであって、特にスイーツというわけではない。詳しくは『小説すばる』のエッセイに載るが『夏季限定〜』の取材でスイーツを食べ歩いていて倒れたので、最近はひかえている。フローズンスイカヨーグルトは美味しかった。また、『春季限定いちごタルト事件』のタイトルは半ば冗談で出したのに企画会議で絶賛されてしまった。だが、かえって「創元推理文庫で本を出す」ことに対するプレッシャーが無くなった。
18.『犬はどこだ』を書くにあたって意識したハードボイルド/ネオハードボイルドの作家は?
 北村薫の『盤上の敵』をイメージしてプロットを書いたら担当さんに宮部みゆきの『火車』ですね、といわれた。特にハードボイルドは意識していない。「ミステリらしいミステリ」の舞台としての設定。文体はハードボイルドっぽいかもしれないが、それは元々。樋口有介さんの影響かもしれない。
19.本格ミステリを幼少の頃より愛読してきたそうですが、実際にお書きになっておられる作品には、微妙に「(いわゆるガチガチの)本格」からのズレや逸脱があるように思われますが。
 自分たちの世代はちょうど新本格が文庫化し始めたころで、新本格はそれまでミステリが持ってきたガジェットを意図的に使っているところに特徴があった。それから影響を受けている自分たちは過剰にガジェットを使うか、ガジェットを使うことに照れがあるかに分かれる。自分はガジェットを使うことに照れがある。(その後の質問で、ガジェットを過剰に使う同年代の作家として北山猛邦を挙げる)
20.『犬はどこだ』のように男同士のコンビ関係を描く場合と、小市民シリーズのように男女の関係を描く場合で違いはありますか? そしてそれは、両シリーズのシリーズ的性格の違いとも関係するのでしょうか?
 『犬』の場合は相棒と言う以前に上司と部下。小市民シリーズでは小鳩と小山内は本当は謎を解きたいミステリ時空側の人間なので、人を人と思っておらず、結果、極端にプラトニックな関係になってしまっている。つまり、作品に見合った書き方をしているだけ。
21.新作『インシテミル(仮)』は「ミステリのためのミステリ」のような作品だそうですが、バークリーの『毒入りチョコレート事件』のような「メタミステリ」や中井英夫『虚無への供物』のような「アンチ・ミステリ」的な作品になるのでしょうか?
 メタやアンチではない。ガジェットにたいする照れをなくして、ガジェットを過剰にした極端にミステリらしい作品になる。
22.発売から5年を経た今でも一人寂しく遊ぶほど『カルドセプト』というゲームがお好きだと聞きましたが、他に好きなゲームなどは? またその最新作『カルドセプトサーガ』の脚本は、同じく作家の冲方丁氏が担当されるそうですが、ゲームの脚本を書いてみたいと思ったことは?
 別に寂しくなんて無いッ! のあと、ゲームについて熱く語る。シューティングが好き(だけど、本人曰く下手)。脚本はいずれやってみたいが、ミステリをおろそかにはできない。
23.共作をしてみたい作家さんは?
 いや、みなさん凄いので……(と言葉を濁す)
24.今後、ミステリ以外で挑戦してみたいジャンルは?
ミステリでまだまだやりたいことがあるので少なくても10年ぐらいはミステリを書き続けたい。もし、可能性があるとすれば時代小説。

ここまでが事前に応募してあった質問を元に話した内容です。この後、会場にいた人たちから質問を受け付けました。んが、全部書く気力は無いので、箇条書きで気になったもののみ掲載しておきます。

・表紙のデザインを辰巳四郎さん*10にやってもらいたかった。
・『愚者』の五章のタイトル「味でしょう」の由来は「アジテーション」←入須が折木を扇動する章だから。
・秋期はマロングラッセ
・折木の由来は一人称が俺だから。
桜庭一樹さんとは創元の担当さんが同じなだけですよッ!
米澤穂信ペンネーム。
・電話帳と子供の名前の付け方の本で名前をつける
・ユーゴは紛争が起きたとき高校生で、何故戦っているのかピンとこなかった。その後、大学生のときに少し勉強した。
倉橋由美子『夢の通い路』→『クドリャフカの順番』で伊原が好きな同人誌のモデル。
鬼頭莫宏ヴァンデミエールの翼』が好き。
・印税はどのくらい?→「さしつかえます」
・ゲームについて熱く語る。*11
・小説を書くとき、いつも自分の今の力量より少し上のプロットを書く。
・何故書いている→書かずにはいられない。
以上です〜〜。つ〜か〜れ〜た〜。米澤先生、同志社大学ミステリ研*12の皆様もご苦労様でした。

*1:本当の座右の銘がメモしてない! い、いきなり…

*2:ん、ちょっと違うかも

*3:司会者の方が言った「じゃぁ『わたし、気になります』はマジック・ワードですね」と言うのは的を得ていると思う。

*4:司会者の「それなら先生はデータベースですね」に米澤氏苦笑。

*5:青臭い、に苦笑

*6:白河「いずる」という名前の由来の推理から「える」の由来もわかるらしい

*7:この場面、気に入っていたようで、消してしまったことを残念がっていた

*8:司会者さんの「残された文書萌え?」という発言に会場は爆笑。司会者どの、グッジョブ!

*9:「かめくん可愛いなぁ」がウケた。

*10:講談社ノベルス新本格の装幀を手がけた方。故人。

*11:ロマサガとか

*12:なんでッ!うちの大学にはッ!ミステリ研が無いんだッ!