TrashyHeaven’sDiary

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三百年の謎匣

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

三百年の謎匣 (ハヤカワ・ミステリワールド)

こうして森江春策は、いま現在の殺人事件と同時に、古びて色あせた文字としてしか伝わっていないそれに没頭していった――さよう、今いるこの世界のページをめくった先に存在する六つの謎めく物語へと。

芦辺拓の森江春策モノです。
いくら地味だと揶揄されようとも、僕はこの名探偵が好きです。他の探偵のように、何か力(財力・権力・コネetc...)を持つわけでもない彼は確かに地味ですが、”もしかしたらどこかにいるかも知れない”という夢を抱かずにはいられない存在です。
芦部拓は”物語”を重視する作家です。この、「連鎖長編」と銘打たれた作品には、現代の物語とは別に、異なる時代、異なる場所の六つの物語が、手書きの本に記された内容として、作中作になって登場します。そのそれぞれが、ひとつの短編としての解決をもち、さらに現在の事件へとリンクする……。推理小説であることよりも、探偵小説であることを。探偵小説である以前に物語であることを。この小説は示しています。