TrashyHeaven’sDiary

主に読書記録とか

パンドラ

パンドラ Vol.2 SIDE-A

パンドラ Vol.2 SIDE-A

漸くパンドラを読み終わりました。なげぇっつの。厚いっつの。以下、それぞれに対する感想列挙。

ゼロアカ道場

凄く面白そう。首都圏にいて、文学フリマへ行けた人は幸いである、みたいな。ただ、インタビューとかどうでも良いから、ひとり数ページぐらいでコラム的なものを書かせたら良いかったのではと思う。

危険な新人

『シノキ大戦』小柳粒男

端的に言ってつまらない。そもそも、デビュー作の面白さというのは、ハードボイルドっぽい文体と主人公である青年がセカイ系的世界の中にいる少年少女を見守るという視点にあったのだと思うのだが、(というか、その視点があるからこそ、ハードボイルド的文体が――言うほどハードボイルドか?と思わないではないが――映えたのだと思うのだが)、ファウストに掲載された短編も今作もその視点を失っていて、シノキというキャラクターに寄りかかっている。
他の二人が、デビュー作とは別の作品世界を構築してきているところに、ひとりシリーズを貫いているあたりに、志の低さを感じる。次もこのシリーズだったら、雑誌に載っていてもおそらく読むことはない。

『さよならのメテオ』泉和良

面白くない、とは言わない。文章も読みやすいし、独特の世界観があると思う。が、何か既視感があって、それは多分、結局「自分のこと」をそのまんま書いているからだと思う。だから、同じ作者である、という以上に(物語の構造ではなく、雰囲気・スタンスが)前作と近すぎるのだと思う。滝本竜彦で言えば『ネガティブハッピー〜』がなくて、デビュー作からずっと『NHKにようこそ』。
『シノキ大戦』はキャラクターに頼っていたが、これは作者のパーソナリティのカリスマ性に頼っている気がする。

『うみかぜ』針谷卓史

“危険な新人”3人の中では一番面白く、安定して読めた。キャラクターにもカリスマ性にも頼っていない、作品だけでの勝負。
ただ、パンドラよりも野生時代が相応しいんじゃないかと思う。ヒットすれば、森見、万城目、針谷、と同列に上げられるようになるかも。目指せ、本屋大賞!というか。ただ、BOXを読んでる書店員がいるのか謎だ。

第2回流水大賞・優秀賞『Switch』梓

戯言シリーズにおける章の頭の格言っぽい文章の真似っぽい漢字の意味解説だとか、「(ここに文章)」で心理描写したり、変なところにメタな会話挟んだり、という「若々しさ」というか「やっちまった感」、あるいは黒歴史候補、みたいな文章は散見されるのだけど、なかなか面白かった。ただ、ちょっと冗長。
世にも奇妙な物語なテイスト。発生している奇妙な事態に対して色々と対応策を模索するあたり、高畑京一郎タイムリープ』を思わせた。今後に期待できると思う。

『蹴語』西尾維新

新シリーズ。今度はスポーツもの。
西尾維新の文体でやると、スピード感があんまり感じられない。だって、動きつつ色々長考しまくっているんだから。
萌えキャラでもないし、文体芸やボケツッコミの応酬も控えめで、ある意味、新・西尾維新なのかもしれないと思う。ともかく、SIDE−Bに続くようなので、後半に期待。

『何でも持っていた、夏。何も与えたくない、春。』吉田アミ

前のパンドラに載っていたものの続編。
前作は面白かったと思うのだが、今回はイマイチ。人間の怖さ、というものを描いていた気がするのに、「妖精」なんていうファンタジックなものが登場して、もうわけがわからない。

下克上ボックス

『月の夜だけ』N村

イラストーリー。良かった。白と黒のバランスが良い。カラーはどんなものを描くんだろう?

『鬼灰買いの佐平治』小仙波貴幸

かなり面白かった。ヘタすると“危険な新人”組よりも良いんじゃないかってくらい。文章も読みやすいし、雰囲気がある。イラストも合っていた。

『あおいひと』いわかみちひろ

最後のページだけでもカラーで見たかった。新人作品としてでなく掲載されていても違和感はないと思う。

『Good Luck!』一橋真

『鬼灰買いの佐平治』のイラストも担当。絵柄は可愛くて好き。ただ、マンガのストーリーとしては微妙。

『盗人待ルノワール円居挽

劣化JDCトリビュート。以上。

『縁の向こう側』斎まや

習作、という感じ。悪くはないけれど、取り立てて誉めそやすまでもないかな、という。絵柄も話もホリックっぽい。

『泰国興隆秘史』日田慶治

濃い。濃ゆい。ページが黒い!

その他マンガ

微妙な出来なのが多い。掲載している意味が不明なのも大量に。 零崎漫画化は……悪くは無い。が、やっぱ竹絵のイメージがなぁー…。

その他コラム

『セカロック』で扱う音楽は、パンドラ読者層とずれてるんじゃないかと思う。音楽を扱うなら、今、若いアーティストがやっているものを取り上げたら良いのでは? 移民日記はなんで載っているのかすら不明。親父衆も同じく。
カラスヤサトシ田中哲弥のパンドラエッセイが面白い上に、雑誌のテーマにも合っている。

総評

微妙。熱気と新人が足りない。ファウストの初期にはあった“何か”は確実に失われてしまったと感じる。ただ、それが雑誌からなのか、作家からなのか、あるいは読者である僕自身なのかがわからない。
ファウスト創刊号当時の佐藤・舞城・西尾はバラバラだったけれど、その3人の作品を並べる理由がどこかにあった。けれど、今のパンドラにはそんなものは見当たらない気がする。作風もジャンルも突き抜けて共通する“何か”―――“時代性”とでも言うのか、そんなふうなものが、感じられない。
パンドラの継続購入は保留だけれど、ともかく来年の大河ノベルだけは楽しみ。